副作用および副現象
化学療法薬の局所的副作用には、テトラサイクリン系抗生物質の点滴静注の際におこる血栓静脈炎およびテトラサイクリン系、ストレプトマイシン、カナマイシンの注射局所(筋肉内または皮下注射の時)の疼痛があります。
全身的な副作用については、種々の報告がある。
(ⅰ)胃腸障害:テトラサイクリン系、マクロライド系、クロラムフェニコール、内服ペニシリン、サルファ剤、ニトロフラン誘導体の経口投与時に、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛、下痢などが発生することがあります。
(ⅱ)腎障害(nephrotoxi-city):アミノグリコシド系、ポリペプチド系抗生物質の全身的投与によって、腎の混濁腫脹から尿細管の壊死にいたる軽重種々の障害がおこる。
(ⅲ)尿路障害:サルファ剤の全身的投与時には、結晶尿、血尿、尿路閉鎖、腎疝痛、食欲不振などの発生がめずらしくない。
(ⅳ)心臓血管系の抑制:アミノグリコシド系抗生物質の大量・急速注入時には、心収縮力の減退と末梢血管の弛緩のため、徐脈、心拍出量減少、血液下降が発生する。
(ⅴ)神経障害(neurotoxicity):アミノグリコシド系抗生物質の長期大量投与によって、第八脳神経が冒され、回復困難な難聴や平衡障害が発生することはよく知られている。
アミノグリコシド系ではまた、静脈内または腹腔内注射のあとで、クラーレの作用に似た神経節遮断のために、随意筋が麻痺し、ついには呼吸筋の麻痺をきたすこともあります。
ニトロフラン誘導体の中には、末梢性の多発神経炎をおこして、知覚異常や疼痛をきたすものがある。ポリミキシンBの投与後に興奮、衰弱、嗜眠、運動失調、四肢の麻痺、一時的な視覚障害が現れることがあり、またサルファ剤の急性中毒の徴候として興奮、筋の脱力、運動失調、四肢の硬直・痙攣が発生することがある。
(ⅵ)造血臓器の障害:クロラムフェニコールの大量長期投与の結果、稀ではありますが、再生不良性貧血、顆粒白血球減少、血小板減少がおこって、危険な状態になることがある。
サルファ剤の慢性中毒では、無顆粒白血球症、溶血性貧血がおこる。
これらの副作用のうち、腎障害は腎機能不全がある場合および大量投与後に発生しやすく、サルファ剤による尿路障害は尿が酸性の場合にしばしば発生する。
また神経筋遮断による随意筋の麻痺は、全身麻酔(エーテル、ペントバルビタール使用)、低血圧、心臓血管機能の抑制がある時に発生しやすいので、手術中および手術直後のアミノグリコシド系抗生物質の投与は避けた方がよい。
生体に対するこれらの一次的な副作用のほか、抗生物質の投与の結果として、二次的に次のような現象(副現象)がおこることがあります。
(ⅰ)アレルギー:各種の化学療法薬のなかで、アレルギーをもっともおこしやすいのはペニシリンです。一部の特異体質の人では、ペニシリンの代謝産物が、生体蛋白と結合して抗原性を発揮する。
ペニシリンアレルギーには、ジンマシン様の発疹から定型的なアナフィラキシー・ショックをおこして死亡するものまで、軽重種々の程度のものがあります。
ストレプトマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールも、ごく稀にアレルギー性の反応をひき起こすことがあります。
(ⅱ)菌交代現象および交代菌症(microbisme selec-tione et substitute(Brisou,1952):たとえば、腸内細菌による疾患にサルファ剤や抗生物質などを連続投与すると、感受性菌は抑制または殺滅される一方、変形菌、緑膿菌などの自然耐性菌が増殖して細菌叢が著しく変化することがあり(菌交代現象)、あるいは真菌群が著しく増殖してカンジダ症など別の感染症を招来することがある(交代菌症)。
B.subtilis v. nigerによる黒舌症も交代菌症の一つです。広域抗生物質を使用する時におこりやすいが、発生頻度は以前考えられていたほど高くはない。
(ⅲ)重感染(superinfection):たとえば、肺炎球菌による肺炎をペニシリンで治療しているうちに、ペニシリン耐性の肺炎桿菌が二次的に外部から感染して重症の肺炎をひきおこす場合などをいいますが、臨床の実際面では、交代菌症との区別が難しい。
(ⅳ)ビタミン欠乏:広域抗生物質を長期間経口投与すると、皮膚の発疹、舌炎、口内炎、咽頭炎、肛門周囲炎、膣炎などが発生することがあります。
これらの皮膚、粘膜の病変は、抗生物質の直接作用によるものはなく、主としてビタミンB、ことにB₂群の欠乏による二次的変化と考えられます。
これははじめ、腸内の大腸菌、乳酸菌の発育抑制に基因すると考えられていましたが、後には腸粘膜から吸収されたビタミンの活性化が阻害される結果といわれています。
また腸内細菌が欠乏する結果、ビタミンKの供給が停止して、出血傾向をきたすことがある。

