鶏のコクシジウム症はEimeria属原虫による疾病で、常在性で多発性の疾病です。
鶏に寄生するEimeria属には9種が知られていますが、経済的損失を与える重大疾病を起こすのは6種です。
最も大きな被害を与える種は盲腸に寄生する盲腸コクシジウム(E.tenella)です。その他の種は小腸に寄生します。
抗コクシジウム薬はいずれもコクシジウムの発育の特定段階だけに有効です。どの薬物も感染進行の比較的初期に有効で、したがって、予防薬として予め鶏に投与しておかなければ有効ではない。
現在、10週齢以下の雛に給餌する配合飼料には1種類の抗コクシジウム薬が配合されています。サルファ剤だけは比較的後期の発育段階に有効であるから防除・治療の目的に用います。
薬剤耐性
同一の薬剤を長期に使用しているとその薬剤に耐性の株が発現してきます。この耐性発現は選択(元来耐性であった個体が増殖することによる発現機構)によるらしい。
したがって、複数の薬物を交代で使用することによって耐性株の発現を阻止できる。
抗コクシジウム薬の使用法
本邦でのブロイラーは8週齢で出荷する形態が多い。耐性株による発症を防止する目的では前期の4週と後期とで飼料に配合する抗コクシジウム薬を変える方法や、世代ごとに薬物を変える方法が用いられています。
しかし、コクシジウムのオーシストは排出後6ヶ月間にわたって感染力を持つので、1薬剤の期間をさらに長くしないとどちらの薬物にも耐性になる危険性があると指摘されている。
●産卵鶏の更新鶏
更新鶏は後に産卵鶏として用いるので、雛の間にすべてのコクシジウム種に対する免疫を獲得させておくことが必要です。このためには、次のような方法が用いられています。
①最初の10週間はブロイラーと同様に抗コクシジウム薬を添加した配合飼料を給餌し、以後は次第に薬剤添加濃度を下げて14週以後は無添加飼料を給餌します。
②予防薬としての抗コクシジウム薬を全く用いず、群れの一部に発症が認められたらサルファ剤で治療する。
③ポリエーテル系抗生物質は免疫形成の抑制作用が弱いので、この系の薬物だけで予防する。
④3日齢以後弱病性オーシストを順々に飼料に添加して免疫する。この方法は米国の一部で応用されている。
●七面鳥
コクシジウム症は5週齢以下の幼雛に発生しますが、サルファ剤・葉酸拮抗薬配合剤を予防・治療薬として用いる。
これらの薬剤は、より重要な疾病である黒頭病(ヒストモナス感染症)にも有効だからです。
モネンシン(monensin):ポリエーテル系抗生物質
この系の抗生物質は鶏のコクシジウム症予防と牛の飼料効率改善薬の目的に飼料添加物として用いられます。モネンシンが代表的薬物です。
モネンシンを飼料に添加して雛に給餌するとコクシジウムの発症が抑制されます。奇妙なことにこの薬物だけでコクシジウムを予防した雛は成長後にコクシジウムに対する免疫を獲得していることが多い。
この現象は次のように説明されています。
モネンシンによるコクシジウム発育抑制は弱く、一部の虫体が発育を続けるために免疫が獲得される。しかし、一部の虫体だけであるから臨床症状はほとんど発現しない。
しかも、モネンシンによって嫌気性菌(主としてクロストリジウム)が抑制され、嫌気性菌による症状の悪化が認められなくなる。
この説明は魅力的ですが、広く支持されている訳ではない。
サリノマイシン(salinomycin)、ラサロシド(lasalocid A)は同系の薬物です。
応用
鶏用飼料に添加して用いるコクシジウム予防薬の80%以上はポリエーテル系抗生物質によって占められています。
これは‥
②予防効果が不完全ではあるが逆に免疫性が獲得できるなどの理由など。
アンプロリウム(amprolium):チアミン拮抗薬
アンプロリウムの化学構造はチアミン(VB₁)と類似しており、このためにこの薬物がコクシジウム虫体に入ると代謝過程においてチアミンと拮抗し、虫体の発育を抑制すると考えられています。
哺乳動物や鳥類に対しての抗チアミン作用は高用量でないと認められない。この薬物は盲腸コクシジウムに有効性が高いが、小腸コクシジウムに対する作用は弱い。
このため、小腸コクシジウムに有効性の高いスルファキノキサリンと配合することが多い。またエトパベート(ethopabate)はアンプロリウムの効果を増強するので、3薬剤の配合でも用いられます。
その他の予防薬
抗マラリア作用があるといわれる中国原産植物のアルカロイドの誘導体。
この薬物の飼料中有効濃度は3ppmと低いが、毒性もかなり強いので、高分子担体に結合させて毒性を弱めて用いる。
●ナイカルバジン(nicarbazin)
コクシジウム予防に有効な二つの成分の複合体で、両者が相乗作用を示す。このために耐性が発生し難く、耐性の発生が知られていない。
●ジクラズリル(dicrazuril)
一般に抗コクシジウム薬では毒性発現濃度と有効濃度の比が1桁ですが、この薬物では100を超えている。
●デコキネート(decoquinate)
キノリン系の代表薬。腸管内でオーシストから出たスポロザイトを殺滅する。スポロザイトが宿主細胞に入れば作用しない。
サルファ剤・葉酸拮抗薬配合剤(強化サルファ剤)
サルファ剤と葉酸拮抗薬との配合剤には強いコクシジウム防除作用があります。したがって、群飼育の鶏の一部にコクシジウム症が発症した時には強化サルファ剤を飼料か飲水に添加して投与すれば発症してない雛の発症を防止できる。
強化サルファ剤としてはスルファキノキサリン・ジアベリジン、スルファジメトキシン・トリメトプリム、スルファモノメトキンン・オルメトプリムなどが知られています。
哺乳動物のコクシジウム症
子牛、哺乳豚、犬、ウサギにコクシジウム感染による下痢症がある。治療にはサルファ剤・葉酸拮抗薬配合剤を用います。
スルファキノキサリンやその配合剤を用いることは危険です。
クリプトスポリジウム感染症(Cryptosporidiosis)
欧米では各種家畜の幼弱動物にクリプトスポリジウム感染症が発生しています。症状は主として下痢です。予防治療薬として、抗コクシジウム剤を含む多数の薬物が試験されましたが、有効で実用的な薬物は発見されていない。
ワクチンも開発されていません。
