骨折を整復する操作は、激しい疼痛と収縮した筋の強い抵抗を伴うので、全身麻酔をほどこしてから行うのがよい。筋弛緩薬の効果はあまり期待できません。
小動物では、ショックが重度の場合を除いて、十分な安全性と調節性のもとに良好な筋弛緩状態を伴った全身麻酔を実施できる吸入麻酔がしばしば採用されます。
しかし大動物ではやや事情が異なりますので、全身麻酔の実施には十分慎重を期して、できれば他の手段を考える必要があります。
ただ馬の骨折を開放性に整復する場合には、全身麻酔が必要であって、これには吸入麻酔がもっとも適しています。
しかし、重度のショック状態にある時には、全身麻酔を行うべきではなく、抱水クロラール(i.v.)による深い鎮静か、あるいはグアヤコールグリセリンエーテルによる筋の弛緩が安全です。また鎮痛には伝達麻酔(神経ブロック)か周囲浸潤麻酔(フィールドブロック)を採用します。
牛では、全身麻酔によって鼓脹症または誤飲性肺炎がおこりやすいので、ギプス包帯などの保存的固定法は、麻酔なしで行われることがありますが、トランキライザーを使用することもあります。また後肢の骨折の場合には、尾椎穿刺または腰椎穿刺による硬膜外麻酔がしばしば応用されます。
整復(reduction, reposition)
転位した骨折片を元の位置にもどすことを整復といいます。
できるだけ正確に旧位に復させることがのぞましい。骨幹の骨折では、若干の側方転位がのこっても、予後に著しい悪影響はありませんが、骨折面の接着が不良で、骨が角度をなして屈折したままであると、それがわずかの角度であっても、予後が不良になります。
骨折線が関節面に達している場合には、つねに骨片をていねいに整復して、関節面の原形を正確に回復させないと、あとに骨の異常な摩耗と、二次性に骨関節炎が発生します。
また、特に四肢の長骨の骨折で、縦軸転位のために、骨の短縮または骨片の騎乗がある場合には、屈筋・伸筋の強い収縮(拘縮)のために、しばしば整復が困難になります。
軟部組織の線維増殖も、また整復を困難にします。
骨片の整復は、非開放性または開放性に行われます。
非開放性の整復(closed reduction)
軟部組織の少ない個所の単純な骨折は、非開放性に整復できることが多い。
触診とX線検査によって、骨片の位置を確かめる。一方の骨片をしっかり保持し、他方の骨片を引っ張りながら動かして、両骨折端をできるだけ正しく対置させます。
顔面の骨では圧迫を加え、関節の骨折では関節の曲がり工合を変え、四肢では牽引、捻転、屈曲、側方圧迫などを行います。
骨片の縦軸転位がある場合には、強い力で牽引しなければならず、あるいは、まず角度をつけて骨折端の一部を接触させるなどの工夫が必要です。
小動物では、単純な用手整復法(manual reduction)が可能なことが多いですが、四肢の筋の抵抗が強い時には、機械的牽引法(mechanical traction)が必要になる。
牽引法には、(a)両手で肢をつかんで引っ張る。(b)手術台上に動物を仰臥させ、静注用スタンドを利用して患肢を吊り上げる。
(c)手術台上に横臥させた動物を縛定し、肢端に結んだ紐を術者の腰に廻して、体重を利用して牽引するなどの方法があります。Gordon伸展装置なども用いられています。
牽引は10~20分以上の時間をかけて徐々に行うことが必要で、2~3分間隔で段階的に力を強めて筋を疲労させ、痙攣性の収縮を克服する。
大動物の四肢では、手による牽引が困難なので、蹄壁にワイヤーを通して牽引することがあります。すなわち、横臥させて、馬ではドリルを用いて蹄底の外側と内側の白線部に2~3cm間隔で、蹄低にほぼ垂直な径3mmの孔を2個あけて蹄壁まで貫通させ(ちょうど蹄釘を打つ要領で)、これにワイヤーをループ状に通し、それらを適宜の牽引装置につけて、肢軸の方向に牽引します。
牛では、外蹄と内蹄の反軸側の白線部から、同様にワイヤーを通します。
その際、肢軸が水平になるように肢を保持することが必要です。
開放性の整復(open reduction)
開放骨折では必然的に開放性に整復することになりますが、皮下骨折でも、非開放性の整復に失敗した場合には、開放性におこなわれます。
開放性に整復したあとの固定には、ふつう内固定法が採用されます。
開放性の整復の実際は、それぞれの骨折例についてさまざまですが、骨鉗子、てこ(梃子)などの器具を使用して行われます。
患部の局所解剖を熟知して、軟部組織の損傷を拡大しないように、穏やかに操作しなければなりません。血管、神経を傷つけないように注意し、骨膜の剥離と、骨に付着する軟組織の離断を避け、また軟組織をさまざまの鉗子で強くつかむことはやめるべきです。
これらの操作の間にも、組織の感染を導入しないようにたえず注意して、損傷を最小限に止めなければなりません。

