マダニ亜目に属するダニ類は哺乳動物、鳥類、爬虫類などに寄生します。
しかし、牛、馬などを放牧した場合に多数マダニ類の寄生をうけ、これら家畜は栄養障害を起こし、貧血したり、死亡することもあります。
このようにマダニは、家畜害虫のうちもっとも重要なもののひとつであり、また中には家畜の疾病を媒介するものも少なくありません。
マダニのことを外国ではticksといい、その他のダニmitesと区別しています。
マダニは数多くのダニの中でもっとも大型の種類であり、また、人畜の外敵として重要です。マダニは吸血量の多いこと、ひとたび吸血を開始したら飽血するまで宿主を離れないというしつっこさからtickはmite以上に嫌がられています。
マダニ類の特徴は…
①口下片に逆向性の歯状突起を有すること。
②第1脚末節背面にハラー氏器官Haller’s organをもつこと。
③気門が第3または第4脚基節付近に開口し周気管はない。
などです。
本邦に知られているマダニ亜目にはマダニ科Ixodidaeとヒメダニ科Argasidaeがあります。
マダニ(hard ticks)
マダニは本邦の牧野に広く分布していて、牧野に放牧されている家畜、とくに牛にとっては放牧衛生上大きな障害となっています。
マダニの形態
一般に楕円形をなし、大きさは未吸血成ダニで1~9mmあり、種類によって異なります。また、一般に雌は雄より大きい。体は顎体部と胴体部に分かれています。
顎体部は胴体部の前方に突出し背面より見ると完全に露出しています。
顎体基部の背面はほぼ矩形をしているもの、六角形をしているものなどがあり、属によって特有な形をしています。また、顎体基部に雌成ダニでは多孔域porose areaがあります。
顎体基部の前方に口下片、1対の触肢および1対の鋏角(鋏角鞘および鋏角指状部)をそなえた口器があります。
口器は幼ダニ、若ダニ、成ダニともよく発達しています。
口下片の腹面には後方に向かって突出する歯状突起群があって、正中線をはさんで左右相称の歯列を形成します。この逆向性の歯は、宿主の皮膚内に口下片を刺込んだ時皮膚からダニが落ちないようになっています。
触肢は4節よりなっていますが、第1節および第4節は小さく、第2、第3節はよく発達しています。
未吸血時には背腹に扁平ですが、吸血するといちじるしく大きくなり、球状となります。
背面の胴部前端より後方にのびる背板(背甲)scutumがあります。背板は雄では背面全体をおおいますが、雌、幼ダニ、若ダニでは前半をおおうのみです。
飽血雌ダニでは背板はみえにくくなります。
目は背板の側縁上に1対あるものと、ないものとがあります。また、胴体部後端に花彩festoonをもつものがあります。
中央胴体部腹面には生殖門とその後方に肛門が正中線上にならんでいます。第4脚基節後方に気門および大きな気門板があります。
脚は4対あり、各脚は細長くて6節よりなっている。脚の末節には1対の爪と、1個の吸盤状の爪間体epodium,padがあります。
また、第1脚末節の背面にハラー氏器官という感覚器官があります。若ダニ、幼ダニは成ダニより小さく、各期の区別がつきます。
マダニの生活史および習性
マダニは寄生性で吸血します。また、卵 → 幼ダニ → 若ダニ → 成ダニという不完全変態をしながら発育します。幼ダニ、若ダニは脱皮して若ダニ、成ダニになり、幼ダニ、若ダニは発育のため、成ダニは産卵するため、各ステージごとにそれぞれ吸血をします。
すなわち、宿主へ寄生、吸血と地上への離脱とを繰り返しながら発育します。
宿主への寄生態度は種類によって異なり、ダニの一生のうち1つの宿主を必要とするもの、2つまたは3つの宿主を必要とするものがあります。
これらを1宿主性、2宿主性、3宿主性ダニといっています。本邦でみられるマダニ科は1宿主性のウシマダニ属を除いてはすべて3宿主性です。
3宿主性ダニとは、幼ダニ、若ダニ、成ダニが寄生と離脱を行います。また、1宿主性ダニは未吸血幼ダニが宿主へ寄生すると、その宿主上で吸血、脱皮を繰り返し、飽血成ダニとなってはじめて宿主を離れて、地上に落下し、産卵します。
フタトゲチマダニは単為生殖系と有性生殖系とがあり、本邦でもこの2系統のフタトゲチマダニが存在し、単為生殖系は全国に分布しています。
有性生殖系は本州中部以南と阿武隈山系に生息しているといわれています。
オウシマダニは1宿主性のダニで、幼ダニから飽血成ダニまで同一の宿主にいます。幼ダニの寄生期間は6日、若ダニは14~16日、成ダニは22~24日で、もっとも長くても30日以内には飽血を終り、牛体より落下します。
また、産卵前期間は約2日、産卵期間は14日といわれています。
本邦の重要種
本邦で発見された種類は10数種におよんでいますが、獣医、畜産上もっとも重要な種類はフタトゲチマダニおよびオウシマダニでしょう。
これらのダニは大動物に好んで寄生しますが、その他の動物にも寄生します。
フタトゲチマダニは日本全国に分布していますが、オウシマダニは南方系のダニで沖縄、九州にいます。
マダニの吸血と産卵
フタトゲチマダニ、オウシマダニの幼ダニ、若ダニは体の維持、発育のために吸血しますが、成ダニ、とくに雌成ダニは産卵するため十分吸血をします。
未吸血の雌成ダニの体重は2~3mgですが飽血すると約100倍も大きくなります。
ダニは吸血すると多量の血液中の水分を排泄していわゆる血液を濃縮するので、真の吸血量は飽血体重の3~5倍であるといわれています。
つまり、一匹の雌成ダニが飽血すると、宿主は約1mlの血液を失うことになります。
飽血した雌成ダニは地上に落下し、石や土塊の下、木の割目、あるいは落葉の堆積層などいわゆるマットの内部などの日蔭の場所で産卵を始めます。
1匹のダニは2,000~3,000の卵を卵塊として産卵します。雌ダニは産卵後死にます。
雄ダニは吸血量は少ないですが、宿主上で雌ダニと交尾をします。マダニの生存日数は幼ダニ、若ダニ、成ダニとも饑餓状態でかなり長い。
マダニの寄生部位
マダニの寄生は一般的に、幼ダニは小動物に、若ダニ、成ダニは大動物に好んで寄生するといわれています。その寄生部位は、宿主の体表全面ですが、特に眼瞼、耳翼、胸垂、内股部、肛門付近などの被毛の少ないところに多い。
マダニの越冬
越冬は飽血幼ダニ、若ダニなどで行われますが、一般には飽血幼ダニで越冬することが多い。しかし、未吸血の幼ダニでは越冬できないといわれています。
マダニの発生消長
本邦のマダニ発生消長は、一般的に春は若ダニが多く、夏には成ダニ、秋には幼ダニが多い。また、マダニはササ、ワラビ、フキ、雑草などが繁茂している草地に多数生息しているので、草地の状態によっても発生数もちがってきます。
マダニの害
マダニの害は次のようにきわめて大きく、家畜にとってもっとも重要な害虫となっています。
成ダニは約1mlの血液を吸うので、牛に100~200個体のマダニが寄生していれば、その牛は100~200mlの血液を失うことになります。
貧血に続いて、マダニ寄生の動物は栄養障害を起こしてやせてきます。
マダニの寄生によって、寄生部位は皮膚炎を起こすことがあります。
また、場合によってはダニ麻痺を起こすこともあります。
牛は貧血し、栄養障害を起こし、その結果乳牛では泌乳量の減少、育成、肥育牛では増体量が減退します。
また、皮膚炎のため皮革としての価値を減じ、牛の外観を損うので商品価値は半減します。
マダニは放牧牛や犬のピロプラズマ病を媒介し、これらの動物を窮地に追い込んでいる。
バベシア・ビゲミナ(ダニ熱)はオウシマダニが媒介し、これも大型ピロプラズマの場合と同様に、ダニの卵に原虫は移行します。
このダニは1宿主性であるので、小型ピロプラズマ、大型ピロプラズマとフタトゲチマダニのように複雑な関係はありませんが、多くの牛に原虫を伝搬します。
そのほか、vectorとなるおもなダニは次のように言われています。
Dermacentor reticulatus‥ピロプラズマ(Babesia cabelli, B.equi,B.canis)
Haemaphysalis fleva‥野兎病
本邦の放牧牛ではピロプラズマ病はいわゆる放牧病の第1位をしめ、この予防、治療に莫大な費用を投じています。
したがって畜産振興上マダニ対策ということはきわめて重要です。
マダニは自然界に広く生存していて、牛、馬をはじめ多くの種類の動物の血液を摂取して生活しているので、防除に当たってきわめて困難を感じています。
しかしながら、家畜を放牧したり、猟犬として犬を野原や山に連れていくときマダニの害は非常に大きい。
マダニ防除にはひとつの方法を実施するのではなく、自然環境の改善、草地に生息しているダニの駆除、宿主(牛など)寄生ダニの駆除などを長年月にわたって併用しなければ効果はあがらないのではないでしょうか。
地上、あるいは草の葉などにいるマダニをできるだけ少なくするため、牧野の環境を改善します。それにはマダニの生息場所をよく調べる必要があります。
実際的な方法としては…
①落葉などが堆積している下にマダニは産卵したり、かくれていることが多いのでこのような堆積層を除去します。
②野草地にはワラビ、シダなどの植物が多く繁茂して地表に落葉堆積層をつくり、適当な湿度を保っているので、マダニは多い。これらの野草地を牧草地とします。
③沢などに生えている灌木や野草を刈りはらう。
④牛の通路や水飲み場、休息場付近は寄生ダニの落下が多いので、乾燥させておく。
⑤牧野に輪換放牧として、休牧期間をつくる。
⑥ダニの生息しやすい場所に火入れを実施する。
有機燐系、カーバメイト系の殺ダニ剤を背負式散紛機で散布するか、あるいはトラクターやヘリコプターにダスターを積込み、草地全面に散布します。
このときの薬剤の剤型は粉剤あるいは微粒剤です。
牧野が傾斜しているとき、下方から煙状にして薬剤を地表面にはわせる方法もとられていましたが、現在ではほとんど行われてはいません。
また、草地に石灰窒素を散布するとダニは減少するということもいわれています。草地ダニの駆除は労力と多額の費用がかかるので、実行しにくいですが、家畜をマダニから守るためには根気強く実施するべきでしょう。
牛体にごく少数寄生している飽血ダニは手で取り除くこともできますが、むりにとるとマダニの口下片が牛の皮膚に残ってしまうので注意する必要があります。
薬剤を使って牛体寄生ダニを駆除するには、背負式噴霧機や動力噴霧機、オートスプレー、薬浴槽あるいはダストバッグ、バックラバーなどを利用して確実、かつ省力的に実施します。
牛を放牧する時、マダニ駆除のプログラムを作り計画的に、長期的に環境改善、草地および牛体寄生のマダニ防除をすればダニ密度は減少するでしょう。

