甘藷黒斑病・毒成分
苦味質がありこれはエーテル、アルコール、アセトン、石油エーテル等に可溶性で、水には不溶であることが記載され、毒物としての見地からは昭和17年に黒褐色硬腐敗甘藷のエーテル抽出物中の不鹸化物に有毒物質が含まれ、これは不鹸化物からステロールを除去した油状物中に存在し、強い苦味を有する物質であることが報告されています。
しかし何れもその本態が不明で、毒物学上何れの属に入るものか判明しませんでした。その後昭和18年により苦味質は精油の一種でケトンと考えられイポメアマロンIpomoeamaronと命名し、分析の結果はC₁₅H₂₂O₃としての計算値に一致することが報告されて以来、中毒の解毒その他に対して一つの方針が見出されるようになりました。
而してこの苦味質は次のような性状を有します。
苦味質は水蒸気蒸留によって分離される精油で劃温蒸溜によって得られ、3mm 131℃の溜分は苦味質の主成分で淡黄色透明の液体で流動し易く特臭があり、セスキテルペンの感触を与える。
苦味は強烈で浸透性強く、水よりも重い。
エーテル、メタノール、氷酢酸、アセトン、石油、エーテル、ベンゾール、クロロホルム等の有機溶剤に可溶性で水には難溶です。
この溜水中には窒素および硫黄は全く含まれていません。過マンガン酸カリおよびブロムを脱色し、ニトロプルシッドナトリウム反応は陽性、シッフの試薬には陰性です。
塩酸セミカルバチッドで処理すればセミカルバゾーンが得られ、Aベンジンで再結を繰返せば融点131°~132℃の無色の結晶が得られ、分析の結果はC₁₅H₂₂O₃の計算値に一致します。
而してこの苦味質は煮た甘藷に黒斑病菌を移植しても苦味を生ぜず、生きた甘藷が黒斑病菌に侵されると苦味が生ずるから、苦味質は菌が分泌するものでなく、生藷内における反応物質であろうと推定しました。
更にその後の実験で水蒸気蒸溜によって得られた粗油を劃温蒸溜するとき最初の3~5mm、50°~90℃の間に生じた無色透明の精油は少量ですが、病理学上から注目すべきものであることならびに精製したセミカルバゾーンを5%の修酸で分解し、エーテルで分取し、ソーダで洗ってエーテルを溜去すると無色透明の精油が得られ、これを蒸溜すれば2.5mm、129℃で大部分が出て来ますが、これは3mm、131℃の淡黄色のものに比べると苦味の味が異なり、且つ程度も低い。
すなわち苦味質には幾種もあるかまたはイポメアマロンがポリメライズされると苦味が増加するものか或いはイポメアマロンより更に苦い物質が混在するものであるか不明であり、尚Penicillium菌に基因する腐敗甘藷にも著しい苦味を生ずるものがあるといっています。
而して本菌の繁殖乃至発育と苦味質の生成に就いては、既述のようにかなり判明し、一般に本菌接種後2~3日で一種の香気を生じ、この芳香性物質は苦味質の中間産物かまたは混在する近似の物質であり、冷温処理や水浸処理を施した生甘藷においては苦味質の生成が幾分増強され苦味質の生成量から考えると、その起源は澱粉およびその分解産物たる糖類でしょう。
以上要するに黒斑病甘藷に生ずる苦味質の本態ならびに生成機転に就いては未だ明らかではありませんが、少なくとも精油に属する苦味質であることは一般に認められています。