イネ二化メイ虫の特効薬とされたパラチオン剤も、人畜に対する危険が甚しく、この弊害を除き且つ効果の変る目的で種々の薬剤が発見され、1949年以来米国シェル化学会社によって製品化されたのがアルドリン、ディールドリンおよびエンドリンです。
これらのものは二化メイ虫には勿論、パラチオン剤でも効果の少なかったイネカラバエにも効き、人畜の危険は到底比較になりませんが、唯欠点は魚類に対し極めて猛毒で、漁業組合の反対にあい各地で問題を起し、水田には、殆ど禁止の状態にあります。
一方、家畜の中毒は余り現れていませんが、決して無害のものではなく、用量によつては極めて激しい中毒で斃死するし、ヒトの中毒死も出ています。
(ⅰ)アルドリン Aldrin
本剤の発見は古く、ジュリアスハイマン会社によつて新殺虫剤118の名称の下に発表されたのは1848年でした。
しかしその後全く顧みられず、その価値が確認されたのは1949(末)で、アルドリンと呼ばれるようになりました。
性状
融点101~102°の純黄色結晶で、室温では無臭ですが、加温するとわずかに松葉臭があります。水には不溶、アルコールに微溶ですが、大部分の有機溶剤に溶けます。
DDTやBHCはアルカリに不安定ですが、本剤はディールドリンおよびエンドリンと共に強アルカリにも安定であり、稀酸、光線、空気などにも変化せず、濃厚な鉱剤、酸化剤、フェノール類および科学的に活性を有する金属とは反応を起して分解します。
アルドリンの有効成分は、Hexachloro hexahydro-endo、exo-dimethano-naphthalene(HHDN)分子式はC₁₂H₁₈Cl₆
工業品は、暗色粘質の固溶状体で60℃以上で融解します。
(a)乳剤
暗褐色で多少粘稠な液体で、アルドリン24%を含みます。
ふつう250~500倍液を用いる。
(b)水和剤
白色または淡灰色の粉末でアルドリン40%を含み、使用にあたっては水1斗に本剤22~44gを混ぜて用いる。
(c)粉剤
白色または灰白色の粉末で、300メッシュ以上の微粉末となっています。アルドリン2%または4%を含み、反当たり2~6kgを撒きます。また種子粉衣は1%とします。
殺虫力
本剤は接触、消化、呼吸毒で、科学的に安定なるため肥料、殺菌剤、除草剤および他の殺虫剤やpH3以下の強酸でない限り、酸性剤とも混用し得る。
アルドリンは主として土壌害虫の防除に使用しますが揮発性があるので燻蒸効果が強く現れ、したがって残効性は大でない。
また人畜に対する毒性はエンドリンより少ない。
(ⅱ)イソドリン Isodorin
シュル会社製品でアルドリンの立体異性体です。科学名1,2,3,4,10,10-hexachloro 1,4,4a,5,8,8a hexahydro-1,4, endo,, endo-5, 8-dimethanonaphthaleneで、化学式はC₁₂H₈Cl₆、結晶状固体、水に不溶ですが、有機溶剤に溶け、アルドリンより安定性が少ない。
乳剤
有効成分20%を含み、0.02~0.05%液を用いる。
(ⅲ)ディールドリン Dieldrin
ディールドリンもまたジュリアスハイマン会社によつて、アルドリンと同じ時期に発見され、497といわれ、1950年に殺虫効果が認められたものです。
性状
融点17~17.5℃、白色無臭の結晶で、アルドリンに比しては少ないが、各種の有機溶剤に溶けます。また、水に不溶で、稀酸、強アルカリに安定ですが、強酸によつて分解することが多少異なります。
ディールドリンはアルドリンの酸素化誘導体と見られるもので、多くの点でアルドリンに似ています。有効成分はHexachloroepoxyoctahydro-endo, exo-dimethano-naphthalene(HEOD)で、分子式はC₁₂H₈Cl₆Oです。
工業品は純黄乃至淡褐フレーク状で融点は150℃以上です。
(a)乳剤
暗褐色の液体でディールドリン18.5%を含む。
水で250~500倍液として撒布します。
(b)水和剤
灰白色の粉末で、ディールドリン50%を含みます。
水1斗に15~25gを加える。
(c)粉剤
灰白色の粉末でディールドリン2%または4%を含み、そのまま撒くか、土壌中に施用する。
殺虫力
接触毒、消化毒でやや遅効性ですが、残効性が大きく、DDTに比し家バエに40倍、アブラムシに200倍の強度があるといわれる。
エンドリンに比し多少劣る。
(ⅳ)エンドリン Endrin
1952年米国で製品化されたものです。
性状
有効成分は、Hexachlorooctahydro-endo, dimethanonaphthaleneでディールドリンの主体異性体です。白色無臭の結晶で、200℃以上に加熱すると科学的変化を起こして融ける。
可溶性や混和性はディールドリンと同様で、アルカリや稀酸には安定ですが、強酸および或種の金属塩および触媒活性を有するキャリヤーの存在で、殺虫力の劣るものに変化する傾向があります。
乳剤は暗褐色で多少粘気のある液体で、エンドリンを19.5%含み引火性があります。
使用にあたっては200~1000倍に薄めて用います。
粉剤は2%乳剤と同じです。
殺虫力
接触毒と消化毒の作用があり、やや遅効性ですが残効性が大きい。
アルドリン、ディールドリンおよびエンドリンと他の薬剤の殺虫力に就いて、米国(1949年)に於て行われた10種の害虫に対する効果試験と、さらに其後の報告をまとめると次のようになります。
Endrin > Dieldrin > Aldrin = Heptachlor = γ-BHC > Chlordane > Toxaphene > DDT
また、土壌中への残効効果は次の通りです。
Endrin > Dieldrin > DDT > Aldrin > Heptachlor = Chlordane > γ-BHC
即ち殺虫力は現在の有機塩素剤のうちエンドリン、ディールドリン、アルドリンの順で最も強く、残効性もエンドリン、ディールドリンが最大で、アルドリンはDDTに少し劣ることになる。
人畜に対する毒性
従来の報告によると、他の有機塩素系化合物と同様、これらの薬剤も濃厚なものは有毒ですから、撒布に当っては粉や霧の状態で吸い込むことのないよう注意すべきであり、また濃厚液が皮膚に付着した場合は、直ちに石鹸水で洗い落すことが肝要です。
DDTやγ-BHCなどに比べると毒性は幾分強いですが使用濃度が薄いので、殆ど問題にならないといわれています。
ただし、魚類やエビ、カニの類には毒性が大きい。
従来魚毒としてはシアン化カリが最も強く、その致死濃度は1800γとされるから、エンドリンはコイでシアン化カリの1/180~1/1800、またディールドリンは1/18~1/90となり、ニジマス稚魚ではエンドリン1/1800、ディールドリン1/1800~1/900となるわけです。
また、エンドリンの方がディールドリンよりも約10倍毒力が強い。
したがって本剤を苗代、水田などに利用し、その汚水が集まって川に流入すれば当然魚類に障害を及ぼし、実際上かなりの影響もあつたようです。
特に福島、長野、岐阜県のごとく農家の自家用として養鯉する地方や、水田養魚の盛んな所では注意が肝要です。

